5.局所的な地盤変動の評価
図-2の楕円に囲んだ長島町にあるPS点で、観測期間に10.0cmを超える沈下量が2点(IG787とIG822)も観測されていた。明らかに周辺の地盤変動とは大きく異なっているので、局所的な地盤変動として分析し要因を推定した。PS点周辺を現地調査した結果、長島町周辺は田畑が広がる地域で、PS点が捉えていると思われる場 所は、写真-1に示すように周辺から少し盛り上がった地盤の上を観測していたと思われる。この盛り上がった地盤が盛土によって造られた可能性が高いと考えた。したがって、盛土の上に住宅を建てたことで、盛土と住宅の荷重によって、今回観測された沈下量が起きたのではないかと考えた。
そこで、盛土荷重から圧密沈下曲線を作成し、PSInSARの観測結果と比較することで、今回観測された長島町の地盤変動が盛土荷重の影響を受けたものかを分析した。盛土荷重から、月ごとや年ごとの圧密沈下量を求め、求めた圧密沈下量から圧密沈下曲線を作成した。圧密沈下曲線とPS点(IG787とIG822)の地盤変動量 を比較したグラフを図-4に示す。
図-4に示すように、PS点の地盤変動量と圧密沈下曲線は、ほぼ等しい沈下傾向を示す結果となった。そのため、長島町で観測された地盤変動量は、盛土と住宅の荷重が要因となって起きたものと考えられる。また、地盤変動の要因が盛土荷重であった場合、PSInSARは圧密沈下量を正確に捉えていたため、観測精度が良かっ たものと考えられる。
6.季節的な地盤変動の評価
PSInSARは観測衛星の軌道周期によって、年に数回の地盤変動を観測することが可能であるため、季節的な地盤変動を観測できると考えられる。季節的な地盤変動の要因の一つに地下水位の変動がある。そこで、PSInSARから得られた観測結果と地下水位の変動を比較することで、季節的な地盤変動を分析した。
ここでは、飛島地域の季節的な地盤変動について分析した結果を述べる。飛島地域周辺のPS点の地盤変動の平均値と地下水位を比較したグラフを図-5に示す。図-5に示すように、①と③の期間では地下水位の変動に関係なく地盤変動が激しく示していることが分かる。②の期間では、地下水位の低下に合わせて地盤沈下 が起きているなど、地下水位の変動と地盤変動の傾向が似ている。そのため、②の期間の地盤変動は、地下水位の変動の影響を受けていると考えられる。
7.まとめ
PSInSARは、広範囲を一度に高い精度で観測出来るという利点があり、その観測結果をGISで整理すると、地域ごとの地盤変動傾向を把握することが可能と考えられる。また、観測点の数においても、水準測量より多く観測できることから、地域の地盤変動傾向を詳細に分析できると考えられる。PSInSARの観測結果を、濃 尾平野全域と比較した結果、市街化されている地域ではPS点が多く、田畑が広がる地域ではPS点が少ないことが分かった。局所的な地盤変動については、現地調査を行うことで地盤変動の要因を推定することが出来る。また、今回は盛土荷重による圧密沈下曲線を作成し、PSInSARの観測結果と比較することで、局所的な地盤変 動の要因を更に特定することが出来た。PSInSARの観測結果と地下水位の変動を比較することで、地下水位の変動が地盤変動にも影響していることが分かった。したがって、PSInSARから季節的な地盤変動を分析ることが可能であると考えられる。
以上の結果から、PSInSARは水準測量にはない長所を持っているため、新しい地盤変動の観測方法と成り得ると評価した。
参考文献
1)佐伯茂雄・大東憲二・葛岡成樹・水野敏実:PSInSARとGISを用いた濃尾平野の地盤変動特性評価:http://www. chikatsu-lab.g.dendai.ac.jp/s_forum/pdf/2006/…/11_sahaku.pdf