4.解析結果と考察

図-2 井戸稼働の有無における地下水位差
  Case2(給水量20L/日)(m)

 井戸稼働の有無での地下水位を比較すると、図-2に示すようにG1層、G2層、G3層に共通して、名古屋市付近を中心に放射状に地下水位低下量の減少が見られる。
 次に、十四山観測井付近における地下水位と累積沈下量の経年変化を図-3と図-4に示す。Case1とCase2では、地下水位・累積沈下量ともに、井戸稼働後、30年経過しても横這いの状態を保っており地盤沈下の可能性はないと考えられ、問題なく揚水することが可能である。Case3では、井戸稼働後、地下水位が愛知県で定められた管理目標安全地下水位を下回り30年間で約6.8cmの沈下が見られた。しかし年間沈下量は1cm未満であり、年月が経過するにつれて徐々に沈静化の傾向にあるため、地盤沈下に対する懸念は若干あるが揚水することは可能であると考える。Case4では、井戸稼動後の地下水位の低下が著しく、注意報地下水位及び警報地下水位下回り、30年間で約33.8cmの大きな地盤沈下が発生してしまうため、このような揚水はできない。

図-3 十四山観測井における地下水位の経年変化(G2層)
図-4 十四山観測井付近における累積沈下量の経年変化

5.まとめ

 今回、三次元地下水流動解析と鉛直一次元圧密沈下解析を用いて将来の地下水状態及び地盤変動を予測し広域地下水管理の在り方について検討を行った。その結果、Case1やCase2程度の地下水であれば問題なく揚水できるが、Case3を超える地下水を揚水し続けると地盤沈下の可能性が高いことがわかった。したがって、Case3の一人あたり100L/日を揚水できる限界の水量として、この揚水量以下の水量であれば揚水することが可能であると判断した。
 また、濃尾平野では、過去に一度大きな地盤沈下が発生しているため、地盤が過圧密状態となっている。したがって、現在では、ある程度地下水を汲み上げたとしても、それほど大きな地盤沈下は発生しないと考えられる。また、G2層のCase1とCase2では、管理目標安全地下水位までまだ余裕があるため、G1層・G3層の揚水量を減らし、G2層からの揚水量を増やすことで、より安定した揚水ができるのではないかと考えられる。
 しかし、避難所数や人口に比例して揚水量が増加するため、避難所数や人口が多い名古屋市付近では、地下水位の低下が比較的大きい。この対策として、名古屋市付近での揚水量を減らして、地下水位の低下がほとんどない大垣市付近での揚水量を増やし、災害時には、不足分を名古屋市付近に運搬することで、地盤沈下の可能性はより低くなり、安定した広域地下水管理ができると考えられる。また、一人あたり100L/日の地下水の揚水が可能であれば、環境用水や災害時の水源として十分に実用が可能であると考えられる。

参考文献

1) 松田康弘・大東憲二・佐伯茂雄:地下水の適正利用を目指した総合的な地下水管理,土木学会,第12回地球環境シンポジウム講演論文集 pp.95-100,2005.
2) 大東憲二・天谷重治・向出剛一:臨界沖積平野の地盤環境保全のための地下水管理に関する考察,地下水学会誌,第34巻,第4号 pp.263-282,1992.