3.層序の作成と地質構造

層序の作成

図‐3 ボーリング結果の対比と層序の作成
注)凡例は図‐2と同じ

 層序の作成にあたって基本となるのはボーリング結果の対比です。図‐3には亜炭層を基準にして上部、中下部、下部を代表すると思われる4本のボーリング柱状図について、それぞれの対比を行いました。さらにほかのボーリング結果も参照しながら作成したのが左の総合柱状図で、これによってこの地区の東海層群の層序を示しました。この柱状図により、この地区の地層構成は次のようになると推定されます。
①下部層(砂礫および砂)
②中部層(粘土優勢、砂・亜炭および火山灰を挟む)
③上部層(砂および砂礫)
 この中で、中部層を細かく見ると火山灰の厚さが場所により異なっており、時には砂に被われて消滅しています。
 火山灰は同じ時期に静穏な環境で堆積したものですが、その後水面が下がって陸になった時期があり、この時削られて薄くなったり消失したりしたものと思われます。ですから火山灰の上面を境にして中部層を2層に分けることも可能と思われます。

地質構造の推定

図‐4 亜炭層の地下構造

 採掘の対象とされた上位の亜炭層の上面の標高から、亜炭層の地下構造を推定しました。図‐4に、各ボーリング地点で判明した亜炭層の標高と、これから作成した地下等高線を示してあります。この等高線の間隔から亜炭層の傾斜が計算できます。また図‐2から推定された位置を結ぶように、断層を描きました。亜炭層の傾斜は、断層の南東側で7~15度、北西側で約12度と計算されました。断層の近くで傾斜が急になっていることが分かります。
 空洞調査は充填工事の事前調査として実施されるものですから、「地下空洞と陥没」の中の「陥没し易い空洞の条件ー1」で説明したように、深部の空洞は工事の対象から除かれます。図‐4の東部の斜線で示した区域は、亜炭層の深度20m以上の所です。開発予定区域からこの部分の除いた残りの面積は、約48,000m2ですから、これが充填計画区域になります。

4.総括

空洞量の予想

 上述したように概略の充填計画を作成する対象面積は48,000m2で、この範囲で空洞を捕捉したボーリング数は17本中8本ですから、空洞率は47%と仮定します。またp..2で記載したように平均空洞高は0.6mです。したがって予想される空洞量は
 48,000×0.47×0.6=13,536m3となります。約14,000m3と言えるでしょう。これが充填工事の概略設計の対象になります。
 ただしこれは、ボーリング間隔30~70mという粗い密度で行われた調査結果ですから、実際の充填工事ではさらに詳細な施工前調査を行って計画充填量を策定します。

断層の扱い

 なお最近断層というと不安を与えるということで、その存在を明記しない場合が少なくありません。しかし断層が危険な活断層かどうかは、詳細な断層調査を行った上でなくては分かりません。一つの指標は明瞭な断層地形が残っているかどうかという点です。図-4を見ますと、断層と現在の地形の間には特に関係はありません。地形の起伏が非常に緩やかなことは、断層形成後、長期間にわたって浸食作用を受けたことを示しています。断層が最近活動した形跡は認められないと言えるでしょう。
 断層の存在は充填工事にも影響します。調査結果をきちんと記載することは、地質調査の基本と言えます。

まとめ

 最後に亜炭空洞調査での重要な点を要約します。
① 調査の基本は亜炭層を挟む地層の層序と地質構造を明らかにすることです。したがってボーリング調査が中心になります。
② 予察ボーリングは大変重要です。ここで基本的な層序を把握することで、調査ボーリングでは貫入試験結果の解釈も容易になります。なお予察段階では全コア採取が原則です。貫入試験を併用すると火山灰など重要な鍵層を見落とすことがあります。
③ 火山灰が同じものかどうかは、慎重な観察(色・粒度・組織・鉱物組成等)によって判定します。特に必要な場合は、年代測定を依頼して噴出年代も知ることもできます。
④ ボーリング結果から断面図を作成する作業は、調査結果の解釈に不可欠です。互いに交わるように断面図を描くことで解釈が不自然だったと気づく場合も少なくありません。また採掘対象亜炭層の地下等高線は、地質構造を最もよくあらわしています。実際の地質調査では地質構造の推定で間違えることが少なくありません。柱状図・断面図・地下構造図の間に、出来るだけ矛盾がないようにするのが調査の基本姿勢と言えるでしょう。

(藤井紀之)