陥没への対応

 たびたび発生する陥没に対する住民の意識はどうであろうか。古くからの住民には戦中戦後を通じて亜炭の採掘に携わってきた家族が多く、近辺で陥没事故を経験したり、見聞したりしている人々が多いと思われる。また、従来は事故があったとしても、鉱害復旧対策事業により、被害者はほぼ復旧費用を担保されていた。そのため、住民の亜炭廃坑による陥没事故の捉え方が、最近のように事故を負の遺産として真剣に理解してこなかったか、行政の対応に対して諦めのようなものを持っておられたのかも知れないと思われる。  従来から石炭を採掘した跡(古洞)は、採掘後,土砂等で充填されたり,空洞のまま残されたりしてきた。この古洞が原因で生じる地表面の沈下は石炭採掘に伴う鉱害の主なものであった。浅所陥没を生じる恐れのある亜炭廃坑は、ほとんど深度30mより浅いものが多く、充填の対象としてその必要性が検討されている。坑道式採掘や残柱式採掘が行われた時には、主として弾性変形範囲内での沈下は生じており、また、空洞掘削による周辺地山の力学挙動(変形状態、局部破壊、緩み等)の影響や、掘削後の地山材料の風化・変質や地下水の影響などによって、空洞天盤と地表面の間で複雑な挙動を示し、残柱の断面減少や強度変化による支保能力の低下がある。特に地表面近くの空洞で、天盤が脆弱な場合は採掘後数年内に局所的沈下、いわゆる浅所陥没が発生する。また残柱や残柱下盤の劣化、変質などにより残柱が崩壊して地盤沈下を起こすことも考えられる。
 御嵩地区亜炭廃坑内の岩盤の状況については、東海大学アイダン教授によって観察・計測が行われてきており、沈下をもたらす要因として下の写真のような空洞内岩盤の変化が示されている。

写真4 天盤の崩壊で崩落土砂が下に堆積
写真5 残柱の破壊

 陥没発生後、3本のボーリング調査が行われ、深度8~10mに亜炭層が分布し、2本のボーリングでは高さ約2mの空洞も確認されている。一般に浅い空洞では天盤の崩落に伴う浅所陥没が発生しやすいが、いわゆるつぼ抜けと言われる程度の比較的狭い範囲のものが多い。今回の陥没範囲は浅所陥没としては異例な大きさであり、亜炭採掘空洞内の広い範囲にわたる残柱が同時に崩壊した可能性が考えられる。アイダン教授によると現在確認されている空洞よりもさらに深い位置での空洞が崩壊した可能性のあることが指摘されているが、これらのことについては更に詳しい調査が必要であろう。

鉱害の復旧

 今回のような陥没による鉱害に対しては、昭和34年以降、臨時石炭鉱害復旧法(臨鉱法)に基づいて鉱害事業団(後に新エネルギー開発機構)によって、その復旧が行われていてきた。しかし、平成14年3月31日に臨鉱法が廃止されてからは、(財)岐阜県経済振興センターがその業務を引き継いだが、岐阜県には鉱害復旧費として総額約5億円の基金が割り振られたに過ぎない。しかも、この基金は災害発生後の復旧が対象で、陥没を予防するための調査や対策には使用できないのが原則である。今回の陥没に対して地盤の安定化をはかり、家屋の復旧を行うための費用がこの基金からどの程度使われるかは現在明らかでない。亜炭の劣化による残柱の破壊や東海・東南海地震などの大地震による広範囲の残柱の破壊によって、今後規模の大きな浅所陥没が増える可能性が高く、空洞充填などの予防的措置の必要性が高まると考えられるが、その費用に対する裏付けは極めて乏しいのが現状である。

写真6 岩盤の劣化は水分量の変化と関係がある(右は水分の測定)